ミリケルビン温度という極低温度域での物性実験においては、試料をいかに冷やすかということも大切であるが、試料の温度をいかに測定するかということも重要なことである。一般に強磁性体の転移温度以下十分低い温度での核磁気共鳴周波数は、超微細相互作用から予想される値より小さくなり、その変位の大きさは、絶対温度の逆数に比例する。これは電子スピンを介しての核スピンの間接相互作用の結果であり、この現象は周波数プリングと呼ばれている。この周波数変位の量を測定することにより、強磁性体自身を温度計として利用することの可能性をさぐるのが本研究の目的であった。まずミリケルビン温度域を得る装置としては、連続運転が可能で冷凍能力が大きいという点でヘリウム3希釈冷凍機を使用することにし、これを自作した。希釈冷凍機の混合室と試料室とを一体化し、それらを過電流による発熱を防ぐためスタイキヤスト等の非金属で製作した。又、試料交換のため試料室は、ソ-プグリセリンシ-ルを用いて簡単に脱着が可能な様にした。温度の較正は、NBSから支給された超伝導定点素子と、ゲルマニウム温度計およびCMNの帯磁率測定により行った。種々の磁性体について実験を行った結果、酸化バナジウム中のバナジウムの核磁気共鳴周波数測定が、ミリケルビン温度域での温度測定に適していることがわかった。この温度計の特徴としては、(1)再現性が良い、(2)応答時間が短い、(3)試料との熱接触が良い、(4)測定のためのリ-ド線が不用、等があげられる。結果は平成2年春の物理学会(於大阪大学)と、同年夏の低温国際会議(於英国)において発表される予定である。
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