研究概要 |
スピングラスの位相空間における自由エネルギ-構造は、高温で単純な一谷構造のものが、低温では複雑な多谷構造をとる。谷間の障壁が着目する温度に比べて十分高いと、系は谷間を移動できなくなり、非エルゴ-ド的であると見なされる。このようなエルゴ-ド・非エルゴ-ド的転移現象はスピングラスの平均場理論によって初めて具体的に定式化された。現実の様々な物質で見られる類似の現象を理解するためには、出発点になる平均場模型に関する十分な理解が必要であると考え、数値的な取扱が比較的容易な、ナイ-ブ平均場模型を詳しく解析し、以下の結果を得た。(1)ランダムな相互作用Jijの平均値Joがゼロ、外部磁場hがゼロの場合について、有限サイズのサンプルの全ての準安定状態を数値的に求め、それらの位相空間における分布(準安定状態間の磁化の重なりの分布で指定されるもの)が熱力学的極限に外挿しても非自己平均的であり、サンプルに関する分布関数の確率分布が、レプリカ法から導びかれた普遍的な分布則に従うことを初めて明らかにした。(2)同様の解析をh≠0の場合について行い、この場合も磁化重なりの分布関数が普遍的な分布則に従うことを示した。(3)Jo≠0,特にリエントラント転移が出現する系について,この転移に伴う準安定状態の位相空間における特徴を明らかにした。 現実のスピングラスにより近い、短距離相互作用型のEA模型についてモンテカルロ法による空間相関のモ-ド解析を行い、対応する強磁性模型の転移温度により低温側でのグリフィス相の存在を示した。このことは系の動的性質と密接な関係があり、エルゴ-ド・非エルゴ-ド的転移現象の動的側面を理解するために必要な情報を与えている。
|