研究概要 |
今年度における研究は,主に,狭いチャネルを通るバリスティックな電子のコンダクタンスの量子化に関するものであった。フェルミ波長と同程度の幅のチャネルを通過する電子のコンダクタンスが2e^2/hの単位(e,hは,電子の電荷及びプランク定数)で量子化されるという現象は,1988年に,オランダのヴァン・ウェ-スらによって発見され,セミマクロな系の重要な問題の一つである。そのメカニズムについては基本的な点はわかっているが,チャネルの構造と,量子化の度合との定量的な関連はまだよくわかっておらず,今年度の研究においては,特にこの問題に重点を置いた。この種の研究は,他にも例がないわけではないが,すべてチャネルの形が非現実的であり,実験との比較の対称とはならない。本研究の特徴は,現実的な形をしたチャネルについて,定量的な数値計算を行った事にある。基本的には2次元のシュレディンガ-波動方程式を解くことであるが,チャネル付近の狭い領域から,漸近的な振舞いをする広い領域への波動関数の接続を,高精度で行う必要があるため,ス-パコンピュ-タ-を用いた大量の数値計算が必要であった。現実的で,かつ異なる形のチャネルについて計算を行った結果,量子化の程度はチャネルの一番せまい場所での形で殆ど決まると言う結論が得られた。具体的には,その場所におけるチャネルの幅と境界の曲率半径との比でのみ決まると言うことである。これは,電子が,チャネルの狭い部分以外では境界に殆ど触れずに,細いビ-ムとなってチャネルを通過していることを示唆しており,コンダクタンス量子化のメカニズムに関し,重要な知見を与えるものである。又,現実的な範囲で単純な形のチャネルでは,量子化の精度の限界は10^<-4>程度であることもわかった。
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