東海地震の予知を目的として、静岡県地震対策課が、1983年5月に静岡県相良町(34゚40.5'N.138゚11.0'E.105m)に365mに長距離水管傾斜計をN60゚W方向に設置した。この傾斜計の記録を解析したところ、大きな年周変化を示していることがわかった。この大部分は降雨による地下水位の変化と温度の変化の影響と考えられる。そこで、牧ノ原アメダスの雨量記録と傾斜計北西端の温度記録をもとに、50日前までの雨量と当日の温度が得られた傾斜記録に影響を及ぼしているとして、それぞれの補正係数を最小二乗法で求めた。この値を用い、傾斜変化から雨量と温度の影響を補正すると、傾斜計設置以来、北西側(内陸側)に約1μrad/yearの速度で傾斜変化していることがわかった。これは、国土地理院によるこの地域の水準測量による広域的な地殻変動とは逆の傾向である。 この原因を調べるため、国土地理院2等水準点BM2591、同009、傾斜計の南西間、水準点105および同007の水準測量を実施した。その結果、傾斜計傾斜計の設置位置を含む水準点009と水準点105の間は傾斜計と同じ変動を示し、その他の区間は、傾斜計とは逆の傾斜を示していることがわかった。 また、傾斜計の周辺で詳しい重力測定を実施し、精密なブ-ゲ-異常図を作ったところ、傾斜計の設置場所付近に、1mgal程度の正の異常が存在することがわかった。このことは、この地域に局所的な活褶曲が存在することを示唆するものと考えられ、この活褶曲の活動により、傾斜計の周辺のみ広域の地殻変動とは逆の傾向を示していると考えられる。このように、プレ-ト運動に伴う広域の地殻変動よりも、短波長の運動の方がより早い運動をしているのが事実であれば、測地学のみならず地質学的にも興味深いことである。
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