順圧流出入モデルを用いた数値実験を行って、日本南岸の地形の変化が黒潮流路の変動に及ぼす力学構造を検討した。日本南岸の海岸線は東西方向から20度傾けてあり、トカラ海峡周辺に於ける黒潮の振舞いに対する九州の地形効果を見るために、東シナ海までモデルに取り込まれている。本研究によって次のことが明らかになった。 (1)黒潮流軸の流速Vが56cm/s以下では直進流路、75cm/s以上では蛇行流路をとり、56〜75cm/sでは多重平衡状態となる。 (2)直進流路と蛇行流路との間の遷移は黒潮流速の時間変動によって引き起こされる。 (3)Vが56cm/sを越えると、流れの非線形性と九州の地形効果によって、黒潮が九州の陸岸から離れ、剥離渦が発生することによって小蛇行が形成される。この小蛇行が大蛇行に遷移するためには、次の2つの条件が満たされる必要がある。(i)Vが75cm/sを越え、慣性によって流路が九州の陸岸から離れ、剥離渦が東進すること、(ii)潮岬附近で小蛇行の振幅(渦の大きさ)が十分に大きくなっていることである。この2つの条件が満たされると、渦は日本南岸から正の渦度の補給を受けて成長し、大蛇行となる。このとき、過度の補給と移流という点で、非線形性が本質的に重要な役割を果たしている。 (4)多重平衡状態では、九州南東沖に剥離渦として形成される小蛇行が停滞するために、直進流路と蛇行流路とが可能になる。 (5)日本南岸の海岸線を東西方向に選んだモデルと、東西方向とずれた方向に選んだモデルとでは、黒潮流路の流速に対する依存性が正反対になるが、その理由を明らかにした。
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