今年度にやったことは大きくいって3つある。ひとつは積雲の効果をパラメタ-ライズしたモデルを用いて熱帯の階層構造の典型例である季節内振動をシミュレ-トしたことである。2つめは、上述のモデルにおいてロスビ-・パラメ-タと呼ばれるものを現実の地球の値より大きくしていってどこまでの大きさならば階層構造が再現されるかをチェックしたことである。これは、雲物理過程を取り入れたモデルを現実的な地球の大きさで走らせることは現在の計算機資源では不可能なので、どの程度まで領域を小さくできるかを見極めるための研究である。3つめは雲物理過程を取り入れたモデルを作るということである。 第1の研究においては、モデルの水平分解能を高めることによって、遅い位相速度を持つモ-ドの出現を見た。これによって季節内振動の現実的なシミュレ-ションも可能になった(論文2)。同時に季節内振動の一見奇妙に見えた構造も統一的に理解することができた(論文1)。第2の研究は現在進行中である。今のところ、ロスビ-・パラメ-タを4倍程度大きいものにしても階層構造が再現されるという結果を得ている。大きければ大きいほどモデルの領域を小さくできるので、4倍というのは今後の研究の見通しを明るいものにしていると言える。3番目の研究に関しては少し問題のあることが分かった。すなわち当初はこれまでの既存のモデルを少し改良するだけですむと思っていたが、これまでのモデルはまさに積雲そのものが主役の雲クラスタ-や台風といったものに用いられてきたもので全エネルギ-が保存しないモデルであった。ところがここでの研究対象は積雲のない領域も広く存在する大規模運動であるため、全エネルギ-の保存は強く要請される原理である。従ってもう少し基礎的なところからモデル作りをやっていかないといけないので、現在はそのための基礎的研究を行っているところである。
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