東京湾、伊勢湾、瀬戸内海などの湾口に冬季海面冷却と淡水流入に起因する熱塩フロントが海面から海底まで発達することは良く知られている。従来この熱塩フロントは壁のように存在し、沿岸水と外洋水の海水交換を著しく妨げると考えられてきた。しかしYanagi etal(1989)は東京湾口の熱塩フロントの詳細な観測結果をもとに、表層で収束した沿岸水と外洋水はフロント域で混合・沈降し、沿岸水の一部は外洋中層に、外洋水の一部は沿岸底層にそれぞれ侵入していることを初めて明らかにした。 そこで本研究では (1)東京湾の詳細な地形を再現した水平2Kmメッシュ、鉛直4層位のレベルモデルを用いて、冬季湾口に発達する熱塩フロントを再現した。 (2)オイラ-・ラグランジェ法を用いて、(1)で開発した数値モデル内の沿岸水の挙動を明らかにした。 (3)その結果東京湾の沿岸水は湾岸西寄りに南下し、湾口の熱塩フロントで沈降し、一部は湾岸東寄りの中・底層を北上し、次第に沿岸水全体と混合していくこと、一部は外洋中層に侵入していくことが明らかとなった。 (4)上記の結果を東京湾内の全窒素に適用すると、東京湾に流入する11万トン/年の窒素の内9万9千トン/年は湾外に流出するが、熱塩フロントを通じての流出量は4万1千トンとなり、全体の40%に達することが明らかとなった。
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