本研究では巣原子流体中における化学反応の挙動の解明をめざし、アルゴンの気体と液体の中間の密度領域(中密度領域)に注目して研究を行なっている。 油圧式電動コンプレッサ-を用いた本格的な実験的研究の前に、油圧用のポンプを改良した装置を用いて、2-メチル-2-ニトロソプロパンの二量化平衡反応に対する予備的な実験を行なった。その結果アルゴン中でも平衡定数の密度依存性に、中低密度領域で異常が現われることがわかった。これは予定していた本格的な実験研究を励ましてくれるものとなった。しかし残念ながら、日本の電気事情に合わせた仕様の変更のため、コンプレッサ-の納入が当初の予定より大幅にずれこみ、今年度は、装置の健全性を確認したに止まっている。なおβ-ジケトン類のケト-エノ-ル互変異性平衡について予備的研究を開始しつつあり、この反応についてのアルゴン中での研究にも期待をかけているところである。 理論的な取り扱いの面では、一次元流体に対する統計力学的な取扱いが意外に有効なパ-スペクティブを与えてくれ、中低密度領域において平衡定数の密度依存性が反転する挙動が、一次元流体において再現されることがわかった。この一方、数値シミュレ-ションについては、モデルの引力的相互作用の設定の上で任意性が大きく、さまざまなモデルケ-スを尽くすには大規模な計算を要するであろうことがわかった。現時点では対応すべき実験事実も十分でないため計算機シミュレ-ションは生産的ではなく、方法論の点で考慮すべき点があるように思われる。なお、一次元流体に対する検討の意外な副産物として、水・テルルなどの特異な性質として知られる、流体の負の膨張率の問題に対して、一次元流体モデルに基づいた厳密な議論が展開可能であることがわかった。
|