1.アルゴン中での(1)βージケトン類(アセト酢酸エチル・アセチルアセトン)のケト-エノ-ル互変異性平衡反応、(2)2ーメチルー2ーニトロソプロパンの二量化平衡反応について実験的検討を加えた。この検討の結果をもっとも単純な溶媒であるアルゴン中でも、化学平衡定数の密度依存性は単純な振舞いを示さないことが明らかになった。特にアセト酢酸エチルのケト-エノ-ル互変異性平衡の研究では、アルゴンとともに二酸化炭素、トリフルオロメタンを溶媒としても実験を行ない、(1)溶媒による差異は低密度側で大きく、(2)アルゴンは後二者とは逆の溶媒効果を示す、ことが明らかになった。低密度側の振舞いは、溶質ー溶媒の分子間力を直接的に反映したものであるが、中高密度の振舞いは多体的な相互作用の結果もたらされたものである。なお興味ある反応系のアルゴン中での振舞いを検討する際には、アルゴンへの反応物の溶解度など基本的な物性デ-タが未知であることが大きな問題となった。アルゴンを溶媒として幅広い観点から評価することが重要であることが痛感された。 2.理論的な研究の面では初年度の研究を引き継ぐ形で、特に一次元流体をモデル系とする化学反応の研究に重点をおいた。従来一次元流体系はあまりにも仮想的な系であるとして、顧みられることがなかった。しかし今回の検討の結果、一次元最近接互作用流体モデルで、現実系の二量化平衡定数の振舞いをおおまかには再現できることが明らかになった。特に検討の副産物として、流体の負の膨張率について理解を深めることができたのは、大きな成果であった。またレ〓-ドージョ-ンズ相互作用からなる単純な三次元系について、中密度領域に注目して積分方程式に基づく計算を行なった。その結果こうした単純な系でも、与えるパラメ-タによって多種多様の振舞いを示し、中密度領域の化学反応の多様さと、新たな学問分野の展開の可能性を示唆するものとなった。
|