研究概要 |
時間分解ESR法を、過渡的ラジカルイオン対を生成すると期待されるいくとかの系に応用し、当初の予想どおりに交換相互作用の存在を示すことに成功した。まずTMPD(N,N,N',N'テトラメチルパラフェニレンジアミン)をユ-プロパノ-ル中で窒素ガスレ-ザ-(波長337nm)あるいはエキシマ-レ-ザ-(351nm)を用い、光励起することによりTMPDのカチオンラジカルと溶媒和電子との交換相互作用により分裂したCIDEPスペクトルの観測に成功した。この新しい現象の発見から、この系における交換相互作用の符号は通常のラジカル対とは異なり正であることが明らかとなった。次にTMPDと無水マレイン酸を混合した系を用いて同様の測定を行なった。その結果、無水マレイン酸の低濃度領域において、やはり交換相互作用によるスペクトル上の分裂が確認できた。このことから。TMPDカチオンラジカルと無水マレイン酸アニオンラジカルガラジカルイオン対を形成していることが明らかとなった。さらに無水マレイン酸アニオンラジカルのスピン分極から、通常は高粘土あるいは人為的にラジカル間の相互作用を強めた系のみに見られるSーTマイナス混合がこの系で起こっていることが確認できた。以上から過渡的ラジカルイオン対の相互作用がク-ロンカにより非常に強くなっているためと結論づけられる。以上のように、ラジカルイオン対に関して時間分解ESR法を応用することは非常に有用であり、強い交換相互作用やSーTマイナス混合がラジカルイオン対一般にあてはまるものと考えられる。現在はキサントンを含む光還元反応の系において塩酸添加が異常なスピン分極を現わす現象の研究を始めているが、この系においてもラジカルイオン対の生成といった初期過程が重要な役割を演じていると考えるに至った。
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