本研究では、鉄ポルフィリン等の大型分子系の分子構造や反応を理論研究する上で不可欠な、1.2電子積分とその積分の原子座標に関する微分及び種々の分子積分の高速計算法と2.安定で効率良く環状分子の平衡構造や遷移状態を探索する方法の両者を考案してそれらの有効性を確認した。 種々の分子積分は「基本積分」から派生した積分と表現でき、この基本積分が漸化関係を満足する(従って、目的の分子積分も漸化関係を満たす)ことを研究代表者が発見した。数値計算における重要な高速計算法の1つである漸化計算法により分子積分の求値を実行できるようになった。この漸化関係はいずれの分子積分においても斉1次になるが、これを利用すると分子積分の種類に依らず共通の計算法を適用することができることも見いだした。さらに、ベクトル計算機を使った高速化も実現できシクロヘキサン分子では最大で28倍になった。 金属ポルフィリン分子系の様な環状部分を持つ分子系の平衡構造や遷移状態を決定する為には既存の方法は不充分である:分子内座標を改良していく方法は環状部分の異常な歪みを途中で引き起こし、xyz座標を改良していく方法は分子が大型な為極めて多数回の座標改良の繰り返しを必要とする。そこで、これらを組み合わせ両者の短所を除いた方法を考案した。エチレンオキシドやピリジンの環状分子についてその有効性を確認した後フリ-ベ-スポルフィンの分子構造の決定に利用した。 本研究を通して、金属ポルフィリン等の大型分子系の理論研究に必要な基本的方法の内重要なものを用意できた。これらの方法は、金属の種々のスピン状態(高スピン、低スピン、あるいは、中間スピン)と分子構造の関係、分子振動と第五第六配位子の種類の影響、あるいは、反応性の解釈や予想等に役立つと考えられる。
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