研究概要 |
酵素や微生物等の生体触媒を用いて、予め設計した合成基質を有用な光学活性化合物に変換する“生物学的"手法の開発に努めてきたが、本研究では従来の水溶液中の反応から有機溶媒を用いるそれへと展開を試みた。この方法は酵素の失活の問題を解決することができれば、生成物の単離が単純化されるなど様々な利点をもつため最近特に注目されている。本研究では従来行なってきたエステラ-ゼやリパ-ゼなどの加水分解酵素によるメソジエステルやラセミ体エステルの不斉又は鏡像体区別加水分解についての知識を元にして、その逆反応である不斉又は鏡像体区別アシル化やエステル交換反応を試み、下記の結果を得た。 1.キラルなオキシ酸エステル誘導体である2ー(2ーアセトキシプロピル)ー6ーメトキシ安息香酸ブチルのラセミ体を基質としてイソプロピルエ-テル中ある種リパ-ゼを作用させると鏡像体区別分子内エステル交換反応(ラクトン化)が起り、光学純度の高い(-)ー3ーメチルー8ーメトキシイソクマリンが得られることを見出し、これを用いてAsperigillus属微生物の代謝産物である(-)ーメレインを全合成することができた。本方法は生理活性を有する種々の天然マクロライドの合成への応用が可能である。 2.ビシクロ〔2.2.2〕オクタンー2,5ージオ-ル等立体配座の固定された多環式かご型ジオ-ル類の有機溶媒中における鏡像体区別アシル化反応を行ない、逆反応である水溶液中での加水分解と比較検討した結果両反応における生成物の絶対配置と光学純度等に興味ある相関性を見出した。 3.微生物Trichoderma Virideの一種が種々のメソ体ジオ-ルのジアセタ-トを不斉加水分解して光学純度の高いモノアセタ-トを与えることに着目し、その加水分解酵素の抽出を試みた結果目的の粗酵素を得ることができた。現在これをさらに精製して上記の逆反応を実施すべく実験を継続中である。
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