研究概要 |
今年度は、多座配位ホスフィイオキサイド類とかさ高い陰イオンによる、金属イオンのイオン対抽出に関する研究を行った。合成した多座配位ホスフィンオキサイド類は、ビス(ジフェニルホスフィニル)メタン及びエタン(BDPPM,BDPPE)、トリス(ジフェニルホスフィニル)メタル(TDPPM)である。これらは一分子内に、二個ないし三個のP=0基を持つ中性配位子であり、その強い塩基性と多座配位の効果により、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Mg、Ca、Sr、Baなどの二価金属イオンときわめて安定な錯体を生成し、適当な陰イオンが共存すれば、イオン対として有機相に定量的に抽出されることを見いだした。金属イオンに配位して7員環を生成するBDPPEではほとんど抽出されず、BDPPM、TDPPMのように安定な6員環を生成することが必要であることが分かった。有機相、陰イオンの選択は重要である。ベンゼンを有機相、過塩素酸を陰イオンとした場合、生成したイオン対は抽出されず、界面付近に沈殿したが、1,2-ジクロロエタンには抽出された。沈殿が単離され、組成が決定された。Cd>Zn>Co>Cu>Ni,Ca>Ba〜Mg>Srの順に抽出された。ピクリン酸を陰イオンとした系についても研究された。クロロホルムへの抽出では、誘電率が小さいためイオン対の解離が無視でき、スロ-プ解析によりイオン対の組成の決定が可能となった。金属イオン、中性配位子、ピクリン酸イオンの比は、BDPPMではCuの場合のみ1:2:2、その他で1:3:2、TDPPMではすべて1:2:2であった。抽出平衡定数が求められたが、その大きさは金属イオンとキレ-ト試薬との反応性から予想される順序とは異なり、生成した錯陽イオンと陰イオンとのイオン対生成とその有機相への分配過程も重要であることを示している。アルカリ金属イオンについても検討された。一般に分配比は小さいが、誘電率の大きなニトロベンゼンへBDPPM/ピクリン酸によりLiは80%以上抽出された。溶媒効果についても検討された。
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