1.軟らかい酸に分類される貴金属と選択的に反応するチアクラウン化合物を分子設計し合成した。(1)グリセロ-ルα、α'ージクロルヒドリンと1、2ーエタンジチオ-ルとを4分子閉環し、2つの水酸基をもつチアクラウン部位を合成した。(2)このチアクラウンとβーフェニルプロピルブロミドを反応させ、2つのベンゼン核を側鎖にもつ、3、10、ージヒドロキシー1、5、8、12ーテトラチアシクロテトラデカンを合成した。 2.この試薬の反応性を調べるため、対アニオンとしてピクリン酸イオン、抽出溶媒として1、2ージクロロエタンを用いて溶媒抽出を行なった。抽出は、設備備品費にて購入した振とう恒温槽を用いて行った。 (1)貴金属であるAg(I)、Pd(II)、Au(III)はこの試薬によって抽出された。特にPb(II)の抽出能は、側鎖としてフェニルプロピル基を持つ事により大きく向上した。(2)その他のクラスb金属ではCu(I)、Ni(II)は抽出されたが、Pt(II)、Cd(II)は抽出されず、クラスab金属ではCo(II)、Ni(II)、Cu(II)は全く抽出されなかった。すなわち、この試薬は貴金属に対して選択的に反応することが明らかとなった。 3.従来のチアクラウン化合物と比較して、フェニルプロピル基を修飾することによりPb(II)及びAu(III)の抽出率が大きく向上した。そこでこれ等の抽出挙動を調べた。(1)水相のpHを変化させると、Pd(II)の抽出率はpHの上昇と共に増加しAu(III)の抽出率はpHの減少と共に増加した。(2)これ等の抽出種の組成を調べた結果、Pd(II)はこの試薬と1:1の錯陽イオンを形成しピクリン酸イオンとのイオン対錯体として有機相中に抽出されることが明らかとなった。又、Au(III)はAuCl^ー_4と試薬が錯陰イオンを形成し、これにプロトンが付加した形で抽出されることがわかった。 4.本研究の結果、貴金属に対して選択的に反応する試薬の分子設計及び合成が、貴金属の系統的分離に有効であることが明らかとなった。
|