研究概要 |
7族の第3系列の遷移金属レニウム(Re)は+7価から-1価までの酸化数をとることができ、豊富な酸化還元の化学を与えているにもかかわらず、その電気分析化学的研究は行われていない。酸化還元的に興味あるジチオカルバミン酸を配位子とするレニウム(III)錯体を取り上げ、それらの合成およびレニウム(V/IV,IV/III)間の酸化還元対の電気化学的挙動を明らかにした。 1.[ReCl_3(CH_3CN)(PPh_3)_2]とジチオカルバミン酸ナトリウム(R_2NCS_2Na,R=Me,Et,i-Pr,n-Pr,Ph)の反応により7配位構造のレニウム(III)錯体([Re(S_2CNR_2)_2(SCNR_2)(PPh_3)](R=Me,Et,i-Pr,n-Pr)および[Re(S_2CNPh_2)_3(PPh_3)])が得られた。[Re(S_2CNR_2)_2(SCNR_2)(PPh_3)]錯体は常温、溶液中で不安定であったので、より安定なレニウム(IV)錯体([Re(S_2CNR_2)_2(SCNR_2)(PPh_3)]ClO_4)の形で単離して種々の測定を行った。一方[Re(S_2CNPh_2)_3(PPh_3)]錯体の配位子置換反応により[Re(S_2CNPh_2)_3L](L=PPh_3,t-BuNC,PhNC,CO)も合成した。 2.種々のボルタンメトリ-測定により、1に挙げた錯体はいずれもRe^<IU/III>酸化還元対は可逆な電極反応を示すのに対しRe^<U/IU>対は非可逆である。このことよりRe^<IU/III>の酸化還元反応はレニウム中心であるのに対しRe^Uへの酸化は配位子(ジチオカルバミン酸)部分の酸化と考えられた。Re^<IU/III>対の可逆酸化電位(E^O')は配位子の種類に依存した。[Re(S_2CNR_2)_2(SCNR_2)(PPh_3)]^<+/0>のE^O'はHammetの脂肪族極性置換基定数(σ^*)とよい相関がありσ^*の大きいものほどE^O'は負にずれ3価から4価へ酸化され易くなっている。[Re(S_2CNPh_2)_3L]^<+/0>のE^O'は配位子Lのπ受容性が大きくなるほどに正になり酸化され難くなっている。またE^O'と電荷移動吸収帯のエネルギ-との間によい相関がみられるなど、多くの新しい興味ある知見が得られた。
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