熱帯雨林地域から放出される揮発性植物起源有機物質の大気化学的インパクトを評価するため、(1)大気中イソプレンの高感度、高頻度測定のための連続自動サンブリングシステムおよびキャピラリ-GC/MSによる高感度測定法の開発、(2)熱帯雨林温室内大気中のイソプレン濃度の測定とフラックスの推定、(3)タイ熱帯林内におけるイソプレン濃度の日変動測定、(4)熱帯雨林起源のイソプレンによるOHラジカル消費の評価、(5)代表的熱帯植物から放出されるガス状有機物質の同定・定量を行なった。 大型の熱帯植物温室における日変動測定の結果から、熱帯植物は大量のイソプレンを放出し、その放出量は日射に強く影響されることが明らかとなった。その日変動パタ-ンを詳細に解析した結果、イソプレン放出速度は4月の日中の場合で、約1mg/m^2・hrに達することが分かった。これは既に報告している針葉樹林からの夏期の全テルペン放出量を上回るものである。また、東南アジアの熱帯雨林として初めてタイの熱帯雨林大気中イソプレン濃度の測定を行なった結果、やはり、顕著な日変動が観察された。イソプレン濃度は日の出時に<0.02ppb以下で、急激に増加して正午頃最大濃度の2ppbに達し、その後急激に減少した。タイのゴム園においても日中増加する同様の傾向が見られた。一方、筑波においては、午後3〜4時頃に最大濃度1ppbが観測されている。熱帯雨林内ではイソプレン放出量がはるかに多いと考えられるにもかかわらず日中イソプレン濃度が2ppb程度に抑えられていること、および最大濃度の観測時刻が筑波の場合よりも早いことから、熱帯雨林地域ではOHラジカルとの反応による日中の消滅がより盛んであることが強く示唆された。そこで、日中1mg/m^2・hrで放出されるイソプレンが全て反応によって消滅すると考えた場合、混合高さを300mとすると、イソプレンによるOHラジカルの消費は日中約8×10^6分子/cm^3・secとなり、熱帯林起源のイソプレンがOHラジカルの重要なシンクになり得ることが結論として得られた。
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