研究概要 |
金属二核あるいは多核錯体の架橋配位子内に外部信号(光あるいはpH変化など)に応答できる置換基を持たせることで、錯体に分子素子構成単位としての機能正を付与することを目的としている。架橋配位子として、プロトン移動が可能なイミノNーH基を有するビスー(2ーピリジル)ジベンズイミダゾ-ル(1)およびビスー(2ーピリジル)ジベンゾイミダゾ-ル(2)を用い、ルテニウムあるいはロジウムを含む対称あるいは非対称二核錯体[M(bpy)_2(L)M′(phen or bpy)_2]^+(I)(M,M"=Ru,Rh;bpy=2,2'ービピリジン;phen=1,10=フェナントロリン)を新規に合成した。 【chemical formula】【chemical formula】 錯体(I)は450ー500nm付近にRuから配位子(bpyまたはphen)への電荷移動(MLCT)吸収帯を示す。吸収スペクトルのpH変化から錯体(I)は二段階の酸解離平衡を示すことがわかった。金属間の距離が近い架橋配位子(2)を有する錯体では、二つのpKaの差は大きくなっており、金属間の相互作用が大きくなっていることがわかる。電気化学的測定から得られた酸化過程はプロトン移動が電子移動と共役した形で起きており、脱プロトン化により金属間の相互作用が大きくなることが、M=M'=Ruの場合について第一および第二酸化電位の差からも推定できた。また、混合原子価錯体における原子価間(IT)遷移の強度が脱プロトン体のほうが5倍程大きいことからも脱プロトン体内での相互作用が大きいことを裏付けすることができた。すなわち、架橋配位子を通しての電子移動がプロトンの解離により大きく変化することがわかり、プロトン解離によるスイッチ素子の可能性を示唆する結果を与えた。 錯体(I)は、このMLCT帯に相当する発光がM=Ru、M'=RhおよびM=M'=Ruでともに16400cm^<-1>に観測された。ただ、発光強度は前者のRuーRh混合金属錯体の方がRuーRu二核錯体に比べ強度は小さくなっていることがわかった。過度吸収スペクトルの測定から、二個のRu(bpy)_2部分が励起されるような条件でも吸収強度は単核錯体の場合の約半分になっており、励起状態間の三重項ー三重項消滅が架橋配位子を通して起こっていることがわかった。異核RuーRh錯体の場合には、RuからRhへの分子内電子移動が10^7s^<-1>の速度で起こる。この分子内電子移動の速度は架橋配位子のプロトン化の状態より変化し、速度論的にもスイッチ機能を持つことが明らかになった。今後は、これらの錯体を電極上に固定化し、分子素子として機能化を図っていきたいと考えている。
|