先に強塩基性陰イオン交換樹脂(トヨパ-ルから誘導した)上で、アニオン-アニオン間の不斉識別に基づいてクロマト的に完全光学分割できることを見出した。本課題では、引き続いてアミノカルボン酸を配位した各種Co(III)錯体の分割を[Sb_2(d-tart)_2]^<2->を分割剤として行ない(この際購入設備備品を有効に利用した)、分割能および溶出順とラセミ錯体の立体構造の関係を検討した。その結果ヘリカルなキレ-ト配列に基づかないキラリティ-を持つ錯体も含めて、結局三つの配位子NNOのfac配位が不斉識別に関与していることを明らかにできた。 キラル識別の機構に関して多くの研究があるが、色々の説があり不明な点が多い。本研究でみられた現象を分子レベルで解明するには樹脂の介在しない単純な系が望まれる。水溶液中での不斉識別のプロ-ブを検討し、アニオン-アニオン間でpfeiffer効果および誘起円二色性(ICD)の現象がみられることを見出した。このような現象の報告は今までになく新しい情報が期待される。即ち[Cr(ox)_3]^<3->や[Co(edta)]^-は[Sb_2(d-tart)_2]^<2->水溶液中Pfeiffer効果を示す。この際アニオン間には静電反撥に抗する親和力は考え難い。またキラルおよびアキラルなアニオン性Co(III)錯体は[Sb_2(d-tart)_2]^<2->中ICDを示す。このICDの強度はカラム分割における分離係数(α)と直線関係にある。この中には[Co(edta)]^-も含まれる。以上の事実から本研究で対象とした錯体間のキラル識別はアニオン間の直接接触ではなく、溶媒和水も含めたキラル構造の相互作用によって起っている推論できた。しかし、まだこれを確定するには十分ではなく、今後色々な方面からより詳細に検討することを計画している。
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