| 研究概要 |
先に,同符号イオン間の不斉識別に基づいた,クロマトグラフィ-による完全光学分割に成功した.この意外な不斉識別現象の本質を明らかにするのが本研究の目的である.
1.前年度に引き続き,[Sb_2(dーtart)_2]^<2->を分割剤としたクロマト的光学分割を計26種ラセミCo(III)錯体について行ない,半数以上が完全分割できた.ラセミ体の立体構造と,クロマトグラフィ-における鏡像体の溶出順序と分離係数の関係を比較検討し,本分割に対し,ラセミ体と分割剤と溶媒和され,その溶媒の間の相互作用に基づいて不斉識別される機構を提案できた.
2.前年度[Sb_2(dーtart)_2]^<2->を環境物質とする[Cr(ox)_3]^<3->のファイファ-効果が,異符号イオン間に匹敵する大きな値を示すことを見出だした.ファイファ-効果への水溶液中での[Sb_2(dーtart)_2]^<2->の解離の寄与を調べるため,解離の可能性がなく,2個のdーtartで架橋された複核の類似錯体,[Cr_2(dーtart)(dーtartH)(bpy or phen)_2]^-による[Cr(ox)_3]^<3->のファイファ-効果を測定した.これらクロム錯体は[Sb_2(dーtart)_2]^<2->よりも更に3〜10倍の強度のファイファ-効果を示した.一方,複核錯体の代りにdーtart^<2->を用いるとファイファ-効果は極端に小さい.これらの事実はこれら複核錯体のアニオンへの相互作用の特殊性を示唆する.更に,未確定ながら[Cr_2(dーtart)(dーtartH)(phen)_2]^-ー水の系が液晶を形成することを見出している.これらの事実は,複核錯体の溶液構造自体に不斉識別の要因がある可能性を示唆する.そこでH[Cr_2(dーtart)(dーtartH)(bpy)_2]の単結晶X線構造解析を行なったところ,錯体はカラム状に配列しておりカラムは水との水素結合で結ばれていることが判った.これは水溶液中での不斉場の形成を予想させるもので不斉識別機構に関して興味ある事実である.
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