多元逆位領域(シャフロン)は、我々がプラスミドR64で発見した新種のDNA再編成領域である。この領域では、4種のDNAセグメントが7個の19bp反復配列により区分されている。領域下流に位置するrci遺伝子産物の作用により、任意の逆向き反復配列間で部位特異的組換え反応が起き、各セグメントは単独あるいは連合して逆位を行う。オ-プンリ-ディングフレ-ム(ORF)の解析から、本領域はN末端部が一定でC末端部が異なる7種のタンパク産生の切換えスイッチであると考えられる。 プラスミドR64の接合伝達領域の決定を最初に行った。一連のR64欠失プラスミドを作成した結果、56.7kbのR64配列を持つプラスミドが接合伝達可能な最小のプラスミドであった。このうちの2.7kbは複製領域であるので、R64の接合伝達領域は複製領域の右側54.0kb内の領域に存在することが明らかになった。接合伝達領域の左端から多元逆位領域までの約19kbの塩基配列を決定した。この領域には合計18個のORFが存在した。この領域をクロ-ン化したプラスミドを持つ大腸菌は、IncI特異的ファ-ジIα、PR64に感受性になることから、この領域は性線毛の形成に関与することを推定した。各ORFに欠失や挿入を導入して変異株を作成したところ、多くのORFは線毛形成及び接合伝達に関与することが明らかになった。多元逆位領域は性線毛形成遺伝子群の最後尾に位置する。多元逆位領域によってそのC末端を変化させる遺伝子をpilVと命名し、C末端が7種の各々に固定化したR64を作成し、受容菌を変えて接合伝達の頻度を測定した。pilVのC末端部の種類と受容菌の組合せによって液体内での接合伝達頻度は著しく変化した。この結果は、R64の多元逆位領域が液体内での接合伝達において受容菌の特異性を決定するのに機能していることを示す。
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