ヒドラの神経細胞は体幹中、主として頭部と足部で分化する(これを位置依存の分化と呼ぶ)。位置依存の分化の生成機構に関して2つの可能性が示唆されている:(1)体幹中にほぼ均一に存在する間細胞が自らの位置を規定する情報を認識して神経に分化する。(2)神経分化へ決定を受けた間細胞が選択的に頭、足部へ移動し、分化する。本研究では上記(2)の可能性について詳細に分析した。 1.正常ヒドラを用いて^3Hーチミヂン標識した下半部と非標識の上半部を接合し標識間細胞の下半部から上半部への移動と神経への分化を調べた。その結果、間細胞は接合後24時間以内では移動をするが、それ以降移動は起こらない。従って、標識された神経細胞の分化も24ー48時間にかけて起こるがその後は停止する。 2.正常ヒドラの下半部と間細胞が温度感受性である突然変異系統(sfー1)の上半部(または逆の組合せ)を接合後、経時的に、高温処理でsfー1間細胞を殺すことによって正常間細胞の分布を調べた。その結果、正常間細胞はsfー1組織の中に浸透せず、明確な境界を形成して徐々に下部へ退行(または移行)した。 以上の結果は、正常ヒドラでは間細胞のアクティブな移動は通常起こらず、従って、神経分化へ決定した間細胞の選択的移動による位置依存の分化生成機構(上記(2))の可能性は否定された。間細胞は体幹中での自らの位置を認識して分化運命を決定すると考えられる。尚、短期的な間細胞移動が認められる理由は接合時の傷の効果によると推測される。
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