真核細胞の分裂期(M期)に見られるヒストンH1、H3の高度なリン酸化はクロマチンの凝縮や染色体形成の重要な要素と考えられる。これまでの我々の研究からは、H1のリン酸化はむしろ引金と考えられ、H3のリン酸化が凝縮に特異的であることが分かった。そこで、H3のリン酸化条件をクロマチンの基本構造であるヌクレオソ-ム構造に基いて解析することにした。ラット肝臓よりクロマチンを調整し、H3単量体、H3ーH4四量体、H2AーH2BーH3ーH4八量体等及び、それぞれのDNA結合体を調整し、基質とした。Aキナ-ゼはM期特異的なリン酸化サイト(セリンー1O)を生体外反応でH3をリン酸化させることが知られている。精製されたこのAキナ-ゼを用いて上記の基質をリン酸化させ、H3のリン酸化量および、ベプチドマップ法によりH3のリン酸化サイトを調べた。 他のヒストンではDNAとの結合によりリン酸化量が減少するのに対し、H3ではいずれの場合も、DNA結合体の方がDNA非結合体と比べ、リン酸化量が増加した。リン酸化サイトを比較すると、DNA結合体ではH3の疎水性領域のスレオニンー118が主にリン酸化されるが、ヌクレオソ-ムやDNA結合体ではこのサイトのリン酸化は阻害され、新たにM期特異的リン酸化サイト(セリンー1O)を含む高塩基性領域がリン酸化された。したがって、H3のM期特異的リン酸化サイトはヌクレオソ-ム構造をとることにより、既にリン酸化されやすい状態になっていることが分った。このことから、間期ではH3のリン酸化を抑制する機構の存在が考えられる。その一つとして間期ではヌクレオソームへの強力なH1の結合が考えられる。
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