1.最近日本でカッコウがオナガに托卵を開始した。オナガへの托卵がその後各地で急速に広がったのは、オナガが卵識別能力やカッコウへの攻撃性を十分もっていなかっためであることを、托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から明らかにし、論文にした。 2.托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から、オナガは托卵されてから10年という短期間に、卵排斥行動や攻撃性といった対抗手段を発達させたため、オナガへの托卵は初期の頃のようにはいかなくなっていることを明にし、両者の関係は適応と対抗適応を通しダイナミックに変化することを論文として発表した。今年度の調査からは托卵が始まる前や始まった直後に比べてオナガの生息密度は著しく低下していることを過去の資料と現在の密度調査との比較から明らかにできた。 3.一昨年カルフォルニア大留学中知り合ったカナダ、McMaster大学のGibbs氏との共同研究は、昨年計91個体のカッコウの成鳥と雛から血液サンプルを集めることができ、彼の研究室で現在分析中である。DNAフィンガ-プリント法などの血液分析で、カッコウの性関係、異なる宿主に托卵するカッコウどうしの遺伝的関係などの重要な問題が解明されることになった。また、京大理学部の重定氏らと2年前から共同研究の形で進めてきている、カッコウと宿主 の相互進化の数理モデルによる解析を論文としてまとめることができた。 4.カルフォルニア大学のRothstein教授とともに、昨年の8月京都で開かれた国際動物行動学会(IEC)で、「托卵における相互進化」をテ-マにしたラウンド・テ-ブルを開催するとともに、その後長野県の軽井沢と信大教育学部に会場を移し、3泊4日のサテライト・シンポジュウムを開いた。シンポは、世界の托卵鳥研究者のほぼ全員にあたる外国から16名、日本から6名が参加し、本格的な国際会議となった。この会議で、これまでの我々の一連の研究内容を発表し、高い評価を得た。また、日本でのカッコウとオナガの関係は、生物進化の事実を目で確認できるまたとないチャンスにあることを参加者に認識していただいた。さらに、今後ヨ-ロッパのカッコウとの比較調査などの共同研究を進めていく話しがまとまった。
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