研究概要 |
本年度は、カザリイソギンチャクエビPericlimenes ornatusの生活史と社会構造を重点的に調査した。定期センサスは愛媛県御荘町室手海岸に設置した20×60m調査枠内で、標本の採集は西海町白浜、船越、弓立で行った。本種は定着後イソギンチャクの口盤・触手から離れることがない。そのため、自由生活するエビ類とは明らかに異なる社会構造・生活史上の特徴を有する。いかに,結果の概要を示す。 1.温帯域に生息するコエビ類の繁盛期は通常春から秋までの半年〜8ケ月であるが,本種では冬季には数少なくなるものの1年中抱卵メスが存在した。 2.ホストへの幼生の定着は8月〜10月が盛んであった。この期間の1ホストあたりの定着総数は約12個体であり、ホストの許容量を大幅に上回った。 3.1ホストに定着する幼生の数はホストの面積が大きいほど多くなる傾向があったが、より主要な制限要因は先住個体(特に雌雄ペア)の存在であった。雌雄ペアがいるホストでは、幼生の定着数は、いないホストのわずか5%であった。 4.高水温期に定着した幼生は平均36日で成熟し、以降平均10日間隔で産卵を繰り返した。晩秋から冬季には繁殖活動は低下するが、翌年4〜5月までには産卵を再開した。 5.最大寿命は1.5年,大部分は1年以内に死亡した。 6.配偶システムは、一夫一妻制であった。配偶者が死亡して単独者となった固体は,その後定着した幼生が成熟するのを待って、その固体と繁殖した。 7.性転換は一度も起こらなかった。 このような結果は、本種が雄性先熟進化の生態学的条件を備えているにもかかわらず,実際にはそれが生じていないことを示している。その理由を知るためには、雄性先熟性の類縁種との比較研究が特に必要である。
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