本研究の当初の目的は、いずれもイソギンチャクに共生する小型エビ類3種Periclimenes ornatus、P.magnificus、Thor amboinensisの生活史・社会構造を比較研究することであった.しかし、個体数の少ない後二者については予備的な資料しか得られなかった。以下にP.ornatusについて本年度調査した項目をあげる。 (1)昨年までに得た生活史の資料をもとに個体群解析を進め、求めた成長曲線、産卵曲線、生残曲線から、成長過程、生残過程、個体群増加率を推定した(研究成果報告書参照)。 (2)定着後の稚エビの性的形質の発現が、同一の宿主に共存する個体間の相互作用によって影響を受けるか否かを知るために、水槽内で実験を試みた。しかしながら、宿主であるイソギンチャクを長期間水槽で飼育すると触手を閉じてしまうため、エビ間の正常な相互作用を詳しく観察することはできなかった。そのため、確定的な結果をまだ得ていない。水槽の大型化と飼育条件の改善が必要である。 (3)稚エビが多数定着する季節(8月〜10月)を除くと、1宿主に1ペアのみが生息することが多い。ペアの個体間関係およびペアと定着直後の稚エビの関係を自然状態で観察した。現在、資料の解析を進めているが、ペア間にはpair bondと呼べるような個体間の結び付きはまったくないこと、雌が雄に対し常に優位であること、稚エビがペアの雌雄によって宿主から排除されることがすでに明らかになっている。
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