本研究の当初の目的は、いずれもイソギンシャクに共生する小型のエビ3種の生活史・社会構造を比較研究することであった。しかし、カザリイソギンチャクエビ(Periclimenes ornatus)以外については個体数が少なかったため、予備的な資料しか得ることができなかった。カザリイソギンチャクはイソギンチャクの口盤・触手上のみに生息しているため、浮遊期終了直後の稚エビから定量的に調査することができ、しかも各個体に標織を付けることなく個体織別が可能であった。そのため、潮下帯の低生無脊稚動物の調査としては例外的なまでに詳細な資料を得ることができた。明かにし得た主な頃目は、(1)定着のプロセス定着個体の生残、先住個体の影響、宿主サイズの影響)、(2)生残(生残に関する先住個体の影響、生残率の季節的変化)、(3)成長と性成熟(成長の雌雄差、性成熟の季節的変化)(4)繁殖システム(一夫一妻制の安定性)、(5)産卵過程(抱卵間隔、雌の体長と抱卵数、水温と抱卵日数)、(6)産卵曲線と生残曲線にもとずく個体群増加率の推定である。これらの結果は、近日中に論文として発表する予定である。今後明らかにすべき課題は、(1)性が遺伝的に決定されているのか、それとも定着後の先住者の性によって個体の性が決定されるのかを飼育実験によって確かめる、(2)本種の生活史特性の地理的変異が大きいため、異なる個体群の比較することによって諸特性の適応的意義を評価する、(3)本種に近縁な種の多くは、他の動物と共生関係を結んでいる。かれらの社会システムは、単独、ペア型小グル-プ制などと変異に富んでいる。社会システムと性の発現を含む生活史の諸特性の関連性を比較研究する。
|