ナラ・カシ類の種子に寄生する種子昆虫の調査結果を基にして、種子と種子昆虫の相互関係についてその生態学的・進化学的意義を考察した。さらに植物と昆虫の相互関係の研究に関する新たなアプロ-チについても論議した。 一般に種子は植物体の他の器官に比べて栄養価が高いために種々の昆虫や動物がそれを資源として利用しており、生産された種子の多く(しばしば80%以上)が捕食によって失われる。このように大きな死亡率をもたらすが、種子捕食が植物の個体群サイズを制御する効果があるのは、密度依存的に作用する場合に限られる。また、捕食者が異なる遺伝型を選択的に捕食する場合には選択圧として働く。一方、植物は種子捕食を軽減するために様々な手段を発達させている。それらは、(1)形態的な防御(外皮を厚くする)、(2)毒性物質などを用いた防御、(3)捕食者からの時間的エスケ-プ(開花時期を調節して、捕食者密度の低い時期に結実させる)、(4)種子サイズを小さくして捕食効率を下げる、(5)速やかに分散させる器官を発達させる、(6)種子生産量の年次変動を大きくする(いわゆるマスティング)、などが挙げられる。これらの中でも共進化的側面から注目されるのが、木本類に特長的で、豊作年と不作年を特定の周期で繰り返すマスティングである。豊作年には捕食者が飽食してしまい、多くの種子が捕食を免れ、実生として定着できる。一方、不作の年には捕食者個体群は大幅に減少してしまい、種子生産量が回復してもすぐには追い付くことができなくなる。この戦略では、ある地域に成育しており同じ捕食者の攻撃を受けている全ての植物個体が、豊作年の周期を同調させる必要がある。この同調は遺伝的に固定されていたり、あるいは環境要因に対する反応として引き起こされることもある。マスティングが顕著に見られる樹種は概して捕食圧が大きく、豊作年の周期は2年から4年の場合が多い。
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