本年度は、ホウレンソウの細胞内に硝酸還元酵素(NR)の分解中間体が存在することを確認すること、またNRに対する全長CDNAを単離することに重点をおいて研究を進めた。先ずNRの分解中間体を単離するために次のような実験を行った。NRの分解中間体は細胞内で速やかに代謝されるものと考えられるので、細胞摩砕時にプロテア-ゼ阻害剤を共存させることで分解産物がさらに低分子化されるのを防いだ。また、ホウレンソウ緑葉から抽出されたNRの分解中間体は、抗NR抗体を固定化したカラムに吸着させることで高濃度に濃縮することができた。抗体カラムから得られた分解中間体の同定には、NRに対するモノクロ-ナル抗体(MC)を用いた。このMCは、NRのサブユニット内に存在する3つのドメインのうち、FADを含むドメインを特異的に認識する。このドメインは、NRのC末端領域に位置していることがわかっている。本実験で得られた6つのNR分解中間体のうち、MCと反応したのは、110、100および44KDaのポリペプチドであった。この結果から、各断片のNR分子中での位置関係を推定し、さらにNRの分解過程を推測することが可能となった。 いっぽうin vitroでNRを加水分解するトリプシンおよびスタフィロコッカスアウレウスのV8-プロテア-ゼの作用部位を特定するためにNRに対するcDNAを単離し、その構造解析を試みた。その結果、トリプシンはアルギニン-251の、またV8-プロテマ-ゼはグルタミン酸-369のカルボキシル基側に作用することを明らかにすることができた。
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