研究概要 |
紅藻ウラソゾは多様な含ハロゲン二次代謝産物を生じる。その主成分はカミグラン型セスキテルペノイドと直鎖型C_<15>ブロモエ-テルのグル-プで、前者にはprepacifenol、後者にはlaureatin,laurencin,kumausallene,epilaurallene,isoprelaurefucin,laurefucin並びにisolauralleneが含まれる。今年度は瀬戸内海と関東・東北地方南部並びに本州日本海沿岸で補足調査を行い、本種の地理的分布域を確定するとともに、各地域個体群の含ハロゲン化合物組成を明らかにした。本州日本海・瀬戸内海沿岸でのLaureatin優勢が、本州太平洋沿岸でのlaurencin優勢が確証された。異なった化合物を生成する個体群から培養藻株を得て、胞子発芽から成熟体にいたる過程での比較形態学的研究を行った結果、それらの間には、形態的差異が認められなかった。また、交雑実験を行った結果、生殖的隔離も認められなかったことから、各々はchemical raceとして扱われるべきであると結論される。Laureatin raceとprepacifenol raceが同所的である北海道南茅部町で補足調査を行い、両者間の自然雑種が定着し、親の一方(prepacifenol race)を押し退けつつあることが確認された。ここでは新しいrace形成が進行中であることが示唆される。北海道小樽市忍路湾に生育するepilaurallene raceはlaureatinも同時に生成していることが判明し、laureatin raceからepilaurallene raceの分化が確認された。本種のchemical racesの地理的分布、各々のraceを特徴づける主要な化合物の予想される成合成過程、並びに復元されている最終氷期以降の日本海の古環境から、racesの分化の方向と過程を推定した。日本海南部から北部にかけて広い分布域を持つC_<15>ブロモエ-テルグル-プのlaureatin raceが最も原始的で、他のracesは酵素系の遺伝的変異によって派生し、(1)ブロモエ-テル系生成酵素の多様化と(2)テルペノイド系酵素獲得の二方向があったと考えられる。
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