研究概要 |
紅藻ウラソゾは多様な含ハロゲン二次代謝産物を生じる。その主成分はカミグラン型セスキテルペノイドと直鎖型C_<15>ブロモエ-テルのグル-プで、前者にはprepacifenol、後者にはlaureation,laurencin,kumausallene,epilaurallene,isoprelaurefuncin,laurefucin並びにisolauralleneが含まれる。本種の日本列島における分布域をカバ-する36箇所の地域個体群の主要な含ハロゲン化合物をおもにHPLCを用いて調査した。本州日本海沿岸に沿って、laureatinを生成する個体群が優先し、東北太平洋沿岸にはlaurencinを生成する個体群が優先している。北海道太平洋沿岸にはprepacifenolを生成する個体群が多く出現し、その他のepilaurallene,laurefucin,kumausallene,isoprelaurefucin並びにisolauralleneを生成する個体群は北海道沿岸に局地的に見られる。本種の含ハロゲン二次代謝産物の多様性は地理的分布域の北方で達成されたと考えられる。異なった化合物を生じる複数の個体群が同所的な生育地もある。異なった化合物を生成する個体群間には、形態的差異も生殖的隔離も認められないことから、各々はchemical raceとして扱われるべきであると結論される。Prpacifenol raceとlaureatin race間の正逆交雑から得られたF_1四分胞子体並びにF_1配偶体の化合物組成から、両者各々の化合物生成に関与する遺伝子は、一対の相同染色体の異なった部位に位置し、まれに組換えあるいは遺伝子変換が起きることが推定される。両者の自然雑種と考えられる四分胞子体並びに組換えあるいは遺伝子変換型の配偶体が実際に確認され、人為的な雑種を用いた実験結課を裏付けている。日本海南部から北部にかけて広い分布域を持つC_<15>ブロモエ-テルグル-プのlaureatin raceが最も原始的で、他のracesは酵素系の遺伝子変異によって派生し、(1)ブロモエ-テル系生成酵素の多様化と(2)テルペノイド系酵素獲得の二方向があったと考えられる。
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