研究概要 |
細胞が細胞周期(cell cycle)のどの段階で飢餓処理され,増殖から分化へ移行するかは、その細胞のその後の形態形成や細胞分化に重要な意味をもつ。細胞性粘菌は発生・分化の研究モデルとして秀れており、この生物における多細胞体制の確立過程および集団内での細胞分化、パタ-ン形成の過程に、飢餓処理(発生開始のためのシグナル)の時点で、個々の細胞の細胞周期内位置が深く関与するととを示した。このような細胞周期依存的な発生・分化のメカニズムをさらに明確にするために、細胞は飢餓処理後に細胞周期をどこまで進行させて増殖サイクルから分化形質発現の方向に移行するかを、細胞周期の種々の位置にある細胞について飢餓処理後の細胞数の変化、および核DNA合成(S期)の有無とその時期等を検討することによって調べた。その結果、粘菌(Dictyo-stolium discoideum,無菌培養株A×-2)細胞は周囲に栄養源がなくなること、G_2期内の1つの特異点(putative shift point;PS点)において増殖サイクルから離脱し分化状態に移行することが示された。実際に、PS点直前にある細胞は飢餓処理されると最も早く発生・分化を開始することが実験的に確かめられ、この細胞は細胞集合時には集合中心として機能している可能性が強く示唆された。また、飢餓処理時点における細胞周期が個々の細胞のその後の発生において指定するものは細胞集団内での細胞の位置どりであり、細胞集団内での細胞分化の比率そのものは細胞周期に依存せず集団内で一定に保たれる機構が存在することがわかった。このことは、細胞集団内での個々の細胞の分化は主として位置情報(集団内での位置価)によって調節されている可能性を強く示唆するものである。現在、細胞周期に関するさらにきめ細かな解析を可能にするために同調培養法の改良を試みている。
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