研究概要 |
1.ハナヤスリ科が生きた原裸子植物であるという最近の研究成果をふまえて,この科の葉と被子植物の心皮を比較して,被子植物の心皮の祖先形を推定した。 2.ハナヤスリ科の実葉の変異を調べたところ,基本的には実葉は栄養部と生殖部からなり,生殖部は栄養部の向軸面につくが,生殖部がつく位置と数が種によって変異することが確かめられた。生殖部は栄養部の葉柄上部につくのが一般的であるが,下部につくものや葉身部につくものがあり,また生殖部は普通1本であるが,ある種では数本つく。 3.ハナヤスリ科の実葉の形態形成を観察した。その結果,実葉の栄養部はそれがつく茎に対して背腹性を示し,栄養部全体と羽片は発生の若い段階で二つ折れの状態であることがたしかめられた。生殖部も同様に二つ折れの状態を示すが,その背腹性は栄養部に対してである。 4.被子植物の心皮の祖先形を推定するこれまでの研究を文献調査したところ,現在最も有力視されている仮説(カイトニアの実葉のようなものに周縁生長が新たに加えられて心皮が形成される)も形態学的・古植物学的に重大な難点があることが明らかになった。 5.ハナヤスリ科とグロッソプテリスを比較したところ,前者が胞子嚢段階,後者が裸子段階である違いはあるものの,実葉が同じように立体的構造を示す点で一致した。したがって,ハナヤスリ科にみられる立体的実葉は裸子植物においても保持されていたことになる。 6.ハナヤスリ科の実葉と被子植物の心皮は,生殖部または胚珠が栄養部または心皮壁の向軸面につく点で一致することが明らかになった。比較発生学的研究を行い,両者の相同性の有無をより詳しく調べる予定である。
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