研究概要 |
1.生きた原裸子植物であると推定されるハナヤナリ科の中で2次維管束をもつのはハナワラビ属だけであるが,ミヤコジマハナワラビ属やハナヤスリ属において器官の一部に2次維管束に似た組織があらわれることが知られている。その組織が2次維管束に匹敵するものかどうかを明らかにするために,ミヤコジマハナワラビの茎の解剖学的研究を行なった。ミヤコジマハナワラビの正常な茎にはその組織はあらわれないが,茎頂が破損して側枝が出ている茎において茎頂から側枝のつく位置にかけてその組織が生じる。この組織は主として既存の1次木部の外側に生じ,放射状に配列した柔細胞と仮導管束からなる。これらの組織はハナワラビ属の2次維管束に類似しており,茎頂破損とそれに伴なう側板形成に対応して,形成属とよく似た分裂能をもった組織が1次的に生じてその組織がつくられると考えられる。したがってミヤコジマハナワラビ属は痕跡的に2次維管束をもち,ハナヤスリ科は基本的に2次維管束を有する群と思われ,原裸子植物であるという考えを支持する。 2.被子植物の心皮の基本構造は葉状の心皮壁の向軸面に倒生胚珠がつくと理解される。この構造はハナヤスリ科の胞子葉の立体構造や化石植物グロッソプテリスに似ている(Kato1990)。しかも,胚珠の倒生性は,胞子嚢が若い時期に栄養葉部に向く性質にも似る。これまでの胚珠の発生学的研究は胚珠の発生様式が葉のそれに似ていることを示している。この類似性および他の証拠から,胚珠の倒生性はハナヤスリ科の実葉部(や一般的に葉)の発生初期における下偏生長と比較できる可能性があることを示した。この仮説に基くと、被子植物の心皮はハナヤスリ科の胞子葉のような立体構造をとった構造から幼形成熟の結果生じたと推定される。
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