本年度の研究目的は、子実体形成期および胞子発芽期における、ミトコンドリア核の融合過程およびその後の分裂過程を超高感度DAPI蛍光染色法と超微量DNA蛍光定量法によって詳細に解析することにあった。ミトコンドリア核の融合・分裂過程を経時的に観察するために、光・温度・栄養条件等を種々の変形体株で検討し、子実体形成や胞子発芽の同調性を飛躍的に向上させることができた。その結果、ミトコンドリア融合による多核の巨大ミトコンドリアの形成過程、巨大ミトコンドリア内でのミトコンドリア核の融合過程およびその後の分裂過程を超高感度DAPI蛍光染色法によって経時的に解析することができた。一方、ミトコンドリア核融合にともなうミトコンドリアおよびミトコンドリア核の特徴的な形態変化を見いだすために、またこの現象とmtDNAの高頻度組換えとの相関を明らかにするためにも、ミトコンドリア核融合を起こす株と欠損(非融合)株の比較は極めて重要である。多くの野生型株および実験株の子実体形成期および胞子内部でのミトコンドリアの融合状態を検索し、子実体形成期あるいは胞子発芽期に到ってもミトコンドリア融合が起こらない非融合株を多数単離することができた。そこで、ミトコンドリア核融合過程の解析およびmtDNAの高頻度組換え現象の解析等はすべてこの非融合株を対照に行うことができ、ミトコンドリア核融合過程における特徴的な形態変化をより明確に把握することができた。また、多数の融合・非融合株のmtDNAを解析した結果、mtDNAの高頻度組換えがミトコンドリア核融合によって誘起されたものであることを証明することができた。さらに、非融合株の単離はミトコンドリアの融合を支配する遺伝子の同定を可能にした。融合株および非融合株間の遺伝的交配実験の結果、ミトコンドリア融合に関与する遺伝子は融合株のミトコンドリアが特異的に持っているプラスミッド様DNA上にあることを見いだした。
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