本研究の目的は高等植物の有性生殖過程における卵細胞の色素体とその核様体の動態を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて明らかにすることである。研究材料は主にナスを用いた。ナスにおいては珠皮や胚嚢自体の細胞含有物が少なく、完成された胚嚢の時期には、ほとんど珠心の組織も消失しているので、生きた胚嚢を観察するのに適している(吉田、1970)。ナスの異なる発達段階の花蕾から胚珠を採取し、微分干渉顕微鏡によって内部の胚嚢を生きた状態で観察し、花蕾の発達段階と胚嚢形成の段階との対応関係を明らかにした。この方法は固定した胚珠を透明化して胚嚢を観察する方法に比べて、観察が格段に容易かつ能率的であり、さらに重要なことは、その同一の試料を電子顕微鏡観察の試料にできることである。このような方法で受精前の完成された胚嚢を電子顕微鏡で観察した結果、次ぎのような知見を得た。卵細胞では中央に大きな液胞があり、それを取り囲む細胞質は薄い層を成し、核は合点側に位置していた。色素体の形は扁平で、チラコイドは非常に乏しく、胚珠の他の組織の色素体とは大きさ、形態ともに明らかに異なっていた。一方、助細胞の合点側に顕著な顆粒が微分干渉顕微鏡で観察されたが、電子顕微鏡観察によって、これが大きな澱粉粒を含む色素体であることが明らかになった。助細胞の他の多くの色素体も澱粉粒を含むが、前述の色素体はそれ自体もその澱粉粒の大きさも著しく、助細胞に特有であると考えられる。卵細胞内での色素体の分布はほぼ均一であったが、この点については、現在連続切片法によってさらに詳しく検討しているところである。また、酵素処理等の方法によって、胚嚢を分離またはプロトプラスト化する試みを現在行なっており、一定の進捗を見た。この方法によって、微分干渉顕微鏡による観察の精度も格段に上がる上に、蛍光顕微鏡による色素体核様体の観察も容易になることが期待される。
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