本研究の目的はナスの有性生殖過程における色素体の動態を明らかにすることであり、本研究計画の最終年度である今年度は受精前の卵細胞における色素体の動態を定量的に扱うことに努めた。 開花直前に胚珠を採り、、完成した胚嚢の受精前の卵細胞に含まれる色素体とミトコンドリアの数と分布を、卵細胞の連続切片像を再構成し調べた。その結果、色素体は卵細胞の中に30個存在し、その半数は核を取り囲み、残りの半数は他の場所に散在していた。これらの色素体の核様体は切片の電顕観察によっては明瞭な像として認めるのが困難であった。一方、ミトコンドリアは約140個存在し、細胞全体に散在していた。 開花して既に受粉している花の、受精直前の状態に達したと見られる卵細胞では、色素体の内部構造の退化はさらに進み、ミトコンドリアとの識別が困難な色素体もあった。色素体は体積を増大し、数が約15個に減少していた。これらの変化はミトコンドリアでさらに著しかった。ミトコンドリアは枝別れした巨大な複雑な形態を採り、その数は約20個に減少していた。核様体は枝別れしたミトコンドリアの各所に顕著に認められた。これらの出来事は色素体とミトコンドリアそれぞれの融合による現象と推察される。 上の結果から、ナスの卵細胞の色素体とミトコンドリアは受精直前に、それぞれの融合によってその数が減少することが強く示唆される。卵細胞において色素体やミトコンドリアが実際に融合しているとすれば、その際にこれらのオルガネラのゲノムの再編が起こっている可能性もある。以上の結果は、高等植物の有性生殖過程における色素体とミトコンドリア本体とそれらのゲノムの伝播機構に関して新しい問題を提示しており、今後の研究によって重要な知見がさらに得られるものと期待される。
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