遺伝的に異なる細胞の融合という意義深い現象である受精の初期に、精子と卵子は細胞表層の糖鎖を認識し結合する。哺乳類の場合、卵子最外層の透明帯中の糖タンパク質(精子レセプタ-)と精子の細胞膜の糖タンパク質が認識し合うとされているが、分子機構は未だ不明である。本研究では、抗原性などの性質がヒトの透明帯に似ているブタ透明帯の精子レセプタ-を単離し結合活性領域の糖鎖構造の決定をめざした。 ブタ卵巣100個から約5万個の透明帯を2日間で得られる、パ-コ-ルを用いる方法を考案し、計100万個の透明帯を得た。熱可溶化後ゲル濾過HPLCで3グル-プ(PZP1-3)に分別した。各グル-プを副精巣尾部由来の精子に加え保温後、精子の透明帯への結合能を調べ(競合法)、PZP3が精子レセプタ-活性を持つことを見出した。PZP3は2種のタンパク骨格しか無いにもかかわらず、糖鎖部分の電荷の差による高度の不均一性を持つ。食塩濃度を段階的に上昇させていく系でのDEAE-HPLCでPZP3を分別した画分の特性付けから、この不均一性は硫酸基が付いたラクトサミンの数の差に由来すること、硫酸基は糖鎖の非還元末端領域に分布していることがわかった。つぎに、PZP3のN-グリコシド糖鎖をヒドラジン分解でタンパク質から切断後蛍光標識し、HPLCによる微量分析法を駆使して構造を解析した。現在までに、これらはほぼ等量の中性と酸性の糖鎖群から成り、中性糖鎖は2本鎖を主とする、いずれもフコ-スを持つ複合型であることを見出すとともに、中性糖鎖群の大部分の構造を決定した。一方、これら中性糖鎖の非還元末端に硫酸化および非硫酸化ラクトサミンが不均一に付き多種の酸性糖鎖を形成していることも明らかにした。今後は、O-グリコシド糖鎖の構造をも決定し、どの糖鎖部分がレセプタ-活性を担っているのかを上記競合法で解明する予定である。
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