本研究の主要テ-マは、マウス胎仔の発生時における唾液腺上皮のクレフト形成、いわゆる小葉形成に必須な細胞外物質の同定とそれの上皮-間充織相互作用への関与を明確にすることである。これらについて今年度新たに得られた成果について以上報告する。 1.すでにIII型コラ-ゲンがクレフト形成に必須である可能性について指摘してきたが、今回上皮-間充織界面におけるIII型コラ-ゲンの存在様式について、その三次元像の再構築をパ-ソナルコンピュ-タ-を用いて行い、成功した。それによればIII型コラ-ゲンはクレフトに沿ってほぼ連続的な繊維束として存在しており、コラ-ゲン繊維を介しての間充織の物理的力が働き易い存在状態にあることが明らかにとなった。 2.ヘパリン、ヘパラン硫酸を分解するヘパリチナ-ゼはクレフト形成を阻害することをすでに明らかにしてきたが、^<35>S-無機硫酸を用いる標織実験によって、ヘパリチナ-ゼの存在下では組織中のヘパラン硫酸鎖は完全に分解除去されているとが判明し、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが上皮の形態形成に重要な鍵を握っている可能性を示した。 3.上記コラ-ゲンやヘパラン硫酸プロテオクリカンは、組織中では細胞間マトリックス成分と相互作用をしていると考えらえっる。これらの未同定の物質を検索するひとつの有力な方法としてモノクロ-ン抗体を利用することを試みた。1個が1mm以下の唾液腺原基100個程度でラットを免疫して、原基の細胞間マトリックス成分と反応する抗体を産生するハイブリド-マを選択しているが、すでに20個以上のクロ-ンを得た。その内いくつかは唾液腺原基と特異的に反応しており、現在抗原を探索中である。この方法は、発生途上のきわめて小さな器官原基の生物学と生化学を推進するための有力な方法であることが示唆された。
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