研究概要 |
我々が先に分離したヒメゾウリムシのjumyo mutantは、クロ-ン寿命が短く、単離培養系で飼育したとき分裂速度が低いという特徴をもつ。この変異株を集団培養系で飼育すると、野性株なみの分裂速度に復帰することから、細胞外液に自らの分裂を促進する物質を分泌していることが示唆されていた。今回この物質の分離精製を試み、分子量17,000のタンパク質を同定することに成功した。まずjumyo mutantの集団培養液からヒメゾウリムシを除き、限外濾過法により100倍に濃縮した液を原試料とし、以下の5段階で精製した。1)陽イオン交換クロマトグラフィ-(CMーSepharose)では、非吸着画分に活性を検出。2)陰イオン交換クロマトグラフィ-(DEAEーSepharose)では、0.1M NaCl溶出画分に活性を検出。3)ゲル濾過(Sephacry1)では、分子量1〜5万の画分に活性を検出。4)陰イオン交換クロマトグラフィ-II(MonoーQ)では、70mM NaCl溶出画分に活性を検出。5)SDSーPAGE電気泳動で分子量17,000の単一バンドを得た。 この精製物質は、熱に不安定で、タンパク分解酵素処理で失活し、pH5〜9の範囲では活性が保持された。さらにこの精製物質は、微量でjumyo mutantの分裂を促進した。以上の特徴から、この精製物質は「成長因子 Growth Factor」の範疇に入る物質であるとみなされ、Paramecium Growth Factor(略してParGF)と名付けた。従来哺乳類以外の細胞でも、成長因子のアミノ酸配列に類似したDNA塩基配列をもつことが報告されているが、物質として同定されてはいない。したがってParGFは、哺乳類以外の細胞で成長因子として同定された最初の例と思われる。 単離培養系でのjumyo mutantの分裂を促進する物質は、jumyo mutant自身の他に、St51株からも分泌されていることがわかった。この株は、突然変異誘発剤処理によりjumyo mutantを分離するのに用いた親株である。したがってjumyo 遺伝子は、ParGFの構造遺伝子ではなく、ParGFの生産を調節する遺伝子、またはParGFのリセプタ-の遺伝子の可能性が示唆された。
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