今回の研究の成果は、大きく4つに分けられる。1つは夏型ホルモンの抽出・精製過程で生物検定に、あるいは夏型ホルモンの抽出のために供する山口産キタテハの光周反応性(季節型発現と成虫卵巣休眠について)を確認することであり、その2つ目は、キタテハ幼虫を季節に関係なく大量に飼育するための人工飼料の確立である。また、3つ目は、その脳から夏型ホルモン活性物質を抽出・精製・単離するために、どのステ-ジのカイコが幼虫、蛹または成虫から脳を採取すればよいかを決めることである。4つ目は、この研究の中心的課題である、カイコガの脳内に存在する夏型ホルモン活性物質の精製過程に、イオン交換クロマトグラフィ-をどのように採用 すれば良いかを決めることである。 上の1から3に分けられた研究成果によって、山口産キタテハの人工飼料飼育が可能となり、その際の光周温度条件は比較的低い温度で、明期の長さを12時間とすることが望ましいと推定された。また、夏型ホルモン活性物質を抽出するカイコガのステ-ジは、脳の大きさ、脳の集め易さ、脳内のホルモン活性から、吐系中の5令幼虫が最適ではないかと考えられた。さらに、4つ目の成果によって、カイコガの脳から抽出した夏型ホルモン活性物質は、熱には強い(95℃、5分)が、酸に弱い物質であり、陽イオン交換体に効率よく(中性附近で)吸着され、溶媒の塩濃度を上げることによって、比較的容易にシングルピ-クとして回収されることが明らかとなった。しかし、イオン交換クロマトグラフィ-に使用する担体の種類を検討することと、これまでに確立された夏型ホルモン活性物質の精製過程(抽出、分画、ゲル3過、高速液体クロマトグラフィ-)のどこに、どのように組み込むかをさらに検討する必要がある。この最後に残された課題は、夏型ホルモン活性物質を効率よく、高収量率で精製するためには、ぜひとも解決する必要がある。
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