細胞質分裂における表層と分裂装置の役割を明らかにするため、卵割中のウニ卵および成熟分裂中のヒトデ卵母細胞を使って次のような研究を行った。1.分裂中期から終期に至るウニ卵の表面に密生している微絨毛を標識として分裂期における卵表面の伸縮を測定した結果、分裂溝形成に立っておこる細胞の伸長の開始と同時に赤道部の細胞表面の収縮がはじまることがわかった。2.細胞内にさし込んだ微小針を使ったり、細胞に遠心力をかけたりして分裂装置を細胞内で動かした場合、分裂装置がかなり変形しても細胞の形は殆ど変わらなかった。この事実は表層が分裂置にくらべて十分かたいものであり、従って分裂装置の能動的または受動的変形は細胞質分裂の過程に殆ど影響を及ぼさないことを示す。3.分裂装置から出されるといわれる分裂刺激の実体を明らかにするため、分裂装置のさまざまな部分をミクロピペットで吸い出して同一または異なる細胞の表層下に移植してその効果を調べた。その結果、このような操作によって表層の顕著な収縮/弛緩は見られなかった。4.分裂溝形成能力を持った表層またはその一部をマイクロマニピュレ-ションによって人工液の中で単離する試みを行った。この実験は部分的には成功したが、分裂溝形成能をもった表層を確実に単離するための人工液の組成を決定するには至らなかった。5.卵割中のウニ卵および成熟分裂中のヒトデ卵母細胞における細胞内カルシウムイオン濃度をエクオリンの発光によって測定したが、分裂活動にともなう顕著なカルシウムイオン濃度の変化は見られなかった。
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