平成2年度までの研究で、動物の生殖細胞や受精後の胚においてミトコンドリアが出現する時期や部位があり、その機能によってその後の発生に重要な役割をもつことが示唆された。当研究グル-プはこのような発生初期のミトコンドリアの活動に注目し、各種動物でその役割について検討を行なってきた。ウニ胚で間充織胞胚期にミトコンドリア分画に一過性のピ-クのタンパク質合成があらわれることを示した当グル-プの結果に基づき、他種の動物の胚発生と比較検討を行なって、ヒトデ胚においても同じ時期にミトコンドリア分画にタンパク質合成が高まり、3種類のタンパク質がつくられることを示した。またコオロギ胚においても、一過性のタンパク質合成活性の上昇が胚のホモジネ-トにおいて確認されたが、コオロギ胚におけるタンパク質合成能増大の原因はミトコンドリア内に出現するRNAによるものであり、翻訳の調節がRNA合成段階で行なわれている可能性がある。アフリカツメガエルにおいてもミトコンドリアのタンパク質合成能に一過性の増大があり、このパタ-ンはミトコンドリアのATPア-ゼ活性の変化と一致した。 平成3年度の研究においては、ウニ胚の骨片分化に関係するアセチルコリンエステラ-ゼの出現を、タンパク質レベルの変化としてミトコンドリアの場合と比較検討した。この酵素は2相性の分子種の出現によって活性が調節され、また時期的にも嚢胚後期に活性が高まり、ミトコンドリア型のタンパク質合成とはきわめて異なったパタ-ンであることが示された。平成3年度の研究結果を合わせて当研究課題の結論を考察すると、発生初期においてはミトコンドリアのタンパク質合成活性が分化に先行して上昇し、数種のタンパク質がつくられて、しかもこの合成はその後の発生に重要な役割をもつと考えられる。
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