動物の生殖細胞や受精後の胚では、多数のミトコンドリアが出現する時期や部位があり、その後の発生に重要な役割をもつと考えられる。当研究グル-プはこのような発生初期のミトコンドリアの活動に注目し、その役割について検討を行なった。ウニ胚で間充織胞胚期にミトコンドリア分画に一過性のピ-クのタンパク質合成があらわれることを示した当グル-プの1988年の結果に基づいて、他種の動物の胚発生と比較検討を行なった。ヒトデ胚においても同じ時期にミトコンドリア分画にタンパク質合成が高まり、3種類のタンパク質がつくられる。 昆虫のコオロギ胚においても、一過性のタンパク質合成活性の上昇が胚のホモジネ-トにおいて確認されたが、ミトコンドリア分画ではタンパク質合成は上昇を続ける。これは細胞質上清にアミノ酸が増加し、取り込みが抑えられるためである。またコオロギ胚におけるタンパク質合成能増大の原因はミトコンドリア内に出現するRNAによるものであり、翻訳の調節がRNA合成段階で行なわれている可能性がある。アフリカツメガエルにおいてもミトコンドリアのタンパク質合成能に一過性の増大があり、このパタ-ンはミトコンドリアのATPア-ゼ活性の変化と一致した。ウニ胚の骨片分化に関係するウニ胚のアセチルコリンエステラ-ゼの出現を、タンパク質レベルの変化としてミトコンドリアの場合と比較検討した。この酵素は2相性の分子種の出現によって活性が調節され、また時期的にもミトコンドリア型のタンパク質合成とはきわめて異なったパタ-ンが示された。 以上の結果から、発生初期においてはミトコンドリアのタンパク質合成活性が分化に先行して上昇し、数種のタンパク質がつくられて、しかもこの合成はその後の発生に重要な役割をもつことが示された。
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