ロドプシンとポルフィロプシンの二重視物質を持つザリガニ網膜中に新たに見出された極性の高いレチノイドについて、その同定・存在様式・温度による変動について調べた。 高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)による分析・蛍光強度測定・吸収スペクトル決定の結果、この極性レチノイドはハ-シス形3-ヒドロキシレチノ-ルであると結論した。これは遊離の形では存在せず、加水分解後に現れるので、網膜内では脂肪酸エステルとして存在している。このエステルはHPLC上では特定できず、広い極性範囲の分画から回収されるので、網膜内では数種のモノエステルおよびジェステルとして存在すると考えられる。3-ヒドロキシレチノ-ルは網膜内に貯蔵されている全レチノ-ル類の3〜9%をしめるが、そのアルデヒド体は全く存在しないので視物質発色団には使われていない。動物を長期低温飼育後高温条件に移すと、3-ヒドロキシレチノ-ルはデヒドロレチノ-ルとほぼ同じ時間経過で減少消失した。動物を高温から低温条件に移すと、デヒドロレチノ-ルと3-ヒドロキシレチノ-ルが共に出現したが、前者はゆっくり増加してゆくのに対し後者は一定の低いレベルを保ったままであった。これらの結果から、3-ヒドロキシレチノ-ルは視物質クロモホアの前駆体ではなく、レチノ-ルからデヒドロレチノ-ルへの転換反応の中間体であり、レチノ-ルから3-ヒドロキシレチノ-ルへの反応が温度によって制御されると思われる。 この他、クロモホア生成に関与する二種の酵素(レチニルエステル加水分解酵素とレチノ-ル脱水素酵素)の活性をとらえ、それらの基礎的性質を調べた。
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