本研究課題の中心的テ-マである、カナダ大西洋諸州(ノバスコシア、ニュ-ファウンドランド、ニュ-ブランズウィック)に広く分布する、石炭紀前期の深海成炭酸塩岩についての解析は当初の計画通り進んでいる。分析試料については、これまでに入手したものに加え、新たに現地調査をして不十分な場所についての補充的サンプリングを行なうと同時に、野外での当該石炭岩、苦灰岩、それらを覆う蒸発岩の産状を詳細に記載した。 酸素・炭素同位体組成の分析は、今回新たに購入したマイクロサンプラ-を用いて行った。この装置は径0.1mm程度の微小部分からの試料採取が可能で、一部苦灰石化した石灰岩や、様々な石灰質遺骸の集積から成るマウンド石灰岩から、産状毎に炭酸塩鉱物を採取する時偉力を発揮した。分析の結果、化学合成バクテリアに依存すると考えられるチュ-ブウォ-ム(vestimentiferan tube worms)などは大変軽い炭素で特徴づけられ、メタンに由来するCO_3がこれら生物に取り込まれた事が示唆される。一方、生物遺骸を膠結するカルサイト結晶は、軽い酸素を特徴的に持つ。原子吸光法でSr含有量を測定すると、膠結カルサイトは海水組成の水から沈澱した事がわかった。従って軽い酸素は天水の影響という事は考えられず、かなり高温の“海水"から生成したと考えられる。 化学合成生物群集から構成されるマウンド石灰岩体には、しばしば硫化物(黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱)が伴なう。硫黄の同位体組成は、これら硫化物を生成した溶液が海水に開放系であった事を示唆する。 現在までのところ、化学合成生物群集を含む石炭紀石灰岩の形成には、その初期においては、メタンや硫化水素を含む低温の水の浸しが重要な役割を持ち、後期においては70〜100℃の熱水が海底附近に噴出した事が鉱化作用と石灰岩の膠結をひきおこしたと考えられる。
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