北部九州炭田地帯の古第三系に含まれる石灰質ナノ化石群集を研究し、5つの炭田に分布する海成層の年代を明らかにして、各累層の対比を当初の目的通りほぼ完成させた。しかし、全般的に化石の保存状態が不良で定量的な解析が難しく、古環境解析については十分な研究成果を挙げることが出来なかった。 天草、崎戸・松島、唐津、筑邦の4炭田で5つのル-トに沿って計300個以上の露頭試料を採取し、崎戸・松島および三池炭鉱で掘削された2本の海上試錐から得た100個以上の地下試料と併せて検討したが、74試料から鑑定可能な石灰質ナノ化石を検出した。この研究を通して82のタクサを識別し、最近の生層序学で用いられている18の時間面を使って対比した結果、北部九州の古第三系は、1)約5000万年前(中期始新世前期)から2800万年前(後期漸新世前期)にかけて堆積したことと、2)堆積盆は北方に向かって移動したことが判明した。 天草炭田の海成古第三系は全て中・上部始新統で、最下部の福連木層はCN13a亜帯(50.0ー48.8Ma)に、最上部の鬼池層はCN15b亜帯に対比できる。三池炭田の四山層は天草の二江層上部と鬼池層に対比させるが、四山層最上部は鬼池最上部よりも少し若い地層の可能性が高い。崎戸・松島炭田の中戸層下部は始新世末期のCN15b亜帯に対比され、始新統/漸新統の境界は中戸層上部か松島層下部に存在する。また、ここでの最上位層である大島層は前期漸新世後期のCN17化石帯に相当する。唐津炭田の杵島層からは漸新世初期CN16a亜帯相当のナノ化石が産出し、唐津層畑津頁岩部層は前期漸新世後期のCN18帯に対比できる。筑邦炭田の山鹿層と坂水層からは北部九州炭田地帯の古第三系では最も若い群集が産出し、後期漸新世前期のCP19a亜帯(30.3ー28.1Ma)に対比できる。
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