平成元年度は、4次の採集・産状調査により、国内各地の代表的産出地から、新生代(一部中生代)の軟体動物化石を採集し、微細構造による検討の可否を確認するため、既存の標本を含め、これらの化石殻体の保存状態を検討した。その結果、中生代の標本のほとんどは初生鉱物、初生構築構造が保存されていないが、成長構造は比較的残存すること、新生代の標本の場合、地質時代の新旧より、むしろ堆積環境(母岩の種類)に依存した保存形式の差異が認められ、漸新生の泥岩から産出した二枚貝では、アラレ石質構築構造が残存すること、などが判明した。化石化過程での殻体物質の変化としては、アラレ石から方解石への転移と方解石の再結晶作用が一般的であるが、他鉱物による置換も多い。これまで、石英、アパタイト、ドロマイト、石膏、褐鉄鉱、方沸石による置換を確認している。このうち、石英によるものでは初生構造が保存されることがあり、注目される。 本課題の主要目的である絶滅種としては、中新世巻貝のVicarya japonicaの殻体構造を検討した。この種の化石は3地区より採集したが、益田層群産の標本が初生構造をほぼ完全に保存していた。この殻体は4殻層からなり、交差板構造を主要構築構造とし、他に不規則稜柱構造、放射状稜柱構造、原交差板構造が認められた。本種の殻体構造をウミニナ科の現生種のそれと比較すると、Terebralia palustrisなどに類似し、Batillaria multiformisなどとは異なる。殻体構造からみると、この絶滅種は、ウミニナ科において、比較的分化の進んだグル-プに属すると考えられる。また、益田層群産のV.japonicaから、殻体内充填物質として、高Srアラレ石が発見された。このような産出例の報告はなく、殻体構成物(アラレ石)の保存との関連も伺われることから、今後も検討を続けたい。
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