平成2年度は、前年度の補足として標本採集・産状調査を行うとともに、主にX線回折法や炭酸塩染色法による鉱物同定、EDSによる元素分析、電顕を含む各種顕微鏡による微細構造観察などの室内実験を行った。さらに、研究成果報告書を印刷・作成した。絶滅種の穀体構造は、新生代の4種について検討し、各々同一科の現生種と比較した。その結果、現生種と根本的に異なる穀体構造は見いだせないが、科内に穀体構造の多様性がある場合に、絶滅種の系統的位置を考察できることが判明した。例えば、Potamididae科の絶滅種Vicarya japonicaは、Cerithidea属やTerebralia属の現生種に近縁で、Batillaria属よりも進化した穀体構造を持つと見なされる。一方、Glycymeridae科の穀体構造は絶滅種、現生種ともに単一で、少なくても新生代中頃からは構造的に安定期に入ったと考えられる。また、化石種の穀体構造の研究において不可欠である初生的構造の保存の問題に関し、国内各地の中生界白亜系から新生界第四系に至る種々の層準の化石群を検討した。大局的には、化石化過程が長期にわたる古い時代のものほど保存が悪いが、構造の保存状態は個体レベルで差があり、多様な化石化のメカニズムの中には一時的に構造保存を促すものもあることが判明した。アラレ石質構築構造の場合、一般的な化石化過程は方解石化(転移とその後の再結晶作用)である。転移段階で留まる標本では構造は保存されるが、その事例は少なく、多くは直ちに再結晶化する。再結晶化の初期段階では、構造の残存が認めらる。この過程での保存状態は構造の種類によっても異なる。概して交差板構造は真珠構造よりも保存がよい。穀体の置換鉱物として、石英、フッ素リン灰石、ドロマイト、方沸石、黄鉄鉱、石膏が確認された。石英による置換穀体は構造保存が良好で、今後の絶滅種を含む化石穀体の内部構造の検討に有効な試料であることが明らかになった。
|