2年度にわたる本研究では、国内各地の白亜系から第四系に至る4層準の10層約20地点での標本採集・産状調査を行うとともに、X線回折法や炭酸塩染色法による鉱物同定、EDSによる元素分析、電顕を含む各種顕微鏡による微細構造観察などの室内実験を行った。絶滅種の殼体構造に関して、新生代の4種について検討し、各々同一科の現生種と比較した。その結果、現生種と根本的に異なる殼体構造は見いだせないが、科内に殼体構造の多様性がある場合に、絶滅種の系統的位置を考察できることが判明した。例えば、Potamididae科の絶滅種Vicarya japonicaは、Cerithidea属やTerebralia属の現生種に近縁で、Batillaria属よりも進化した殼体構造を持つと見なされる。一方、Glycymeridae科の殼体構造は絶滅種、現生種ともに単一で、少なくても新生代中頃からは構造的に安定期に入ったと考えられる。また、化石殼体における初生的構造の保存について、アラレ石質穀体の方解石化(転移とその後の再結晶化)、方解石質殼体の再結晶化、殼体の他鉱物置換、殼体空隙の二次沈着鉱物充填などの過程毎に検討した。大局的には、古い地質時代のものほど保存が悪いが、構造の保存状態は個体レベルで差があり、化石化のメカニズムの中には一時的に構造保存を促すものもある。方解石化過程では、転移段階や再結晶化の初期段階では、構造の残存が認めらる。この過程での保存状態は構築構造の種類によっても異なり、概して交差板構造は真珠構造より保存がよい。殼体の置換鉱物として、石英、フッ素リン灰石、ドロマイト、方沸石、黄鉄鉱、石膏が確認された。石英質置換殼体は構造保存が良好で、絶滅種を含む化石殼体の内部構造の検討に有効な試料であることが明らかになった。なお、充填性アラレ石には殼体構成アラレ石の光学性が転写されいおり、構造復元に利用できる。
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