平成1年度は北海道東部の根室層群上部の厚岸層・床潭層を中心に、一部浜中層・尾幌川層および門静層の試料を48個採集し、19試料につき花粉・胞子および植物性微プランクトンなどを検出し、検討した。厚岸湾周辺地域の厚岸層の7試料から565個体、落石湾周辺地域の厚岸層および床潭層の9試料から768個体、長節海岸の厚岸層の3試料から36個体を検出した。厚岸層および床潭層では、これまでの生層位学的見解によれば、厚岸層は底生有孔虫、アンモナイトおよびイノセラムスなどにより自亜紀最上部層(マ-ストリヒト階)であり、床潭層は有孔虫で中〜上部ダ-ニアンとし、コツコリス化石で下部ダ-ニアンとしている。厚岸層および床潭層はともに時代決定に有効と考えられる花粉・胞子を多く含むが、とくにTriprojectacites花粉群、Callistopollenites、 Wodehouseiaなどの白亜紀最上部マ-ストリヒト期を示す花粉を産する。 平成2年度は、昆布盛の床潭層、霧多布およびユルリ島の霧多布層(根室層群最上部)の花粉・胞子を検討した。昆布盛の床潭層の11試料中9試料から花粉・胞子、その他を746個体検出し、176種を識別した。これらは落石の床潭層に比較されるもので、その時代はマ-ストリヒト期である。霧多布層については。磔岩層が顕著で、泥質の細粒砕屑岩層は限られた分布を示している。霧多布では7試料中4試料から105個体を、ユルリ島では7試料中4試料から267個体の花粉・胞子、その他を検出し、138種を識別した。本層は床潭層および厚岸層と52種の共通種を有し、可なりの共通性を有しているが、大部分は出現期間の長い種類である。本質的な大きな差異は、Aquilapollenites、 Callistopollenites、 Wodehouseiaなどのマ-ストリヒト期特有の種類が検出されないことであり、新しくモクレン科の花粉が出現する。したがって、白亜紀ー第三紀境界は床潭層と霧多布層の間におくのが妥当と考える。
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